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2026年07月01日
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さるのそうしき
2012年11月28日
彗星のように迫ってきたかと思えば、あっという間に消えてしまった。報道の隙間を縫って、元野球選手のコメンテーターが呟いた。
それはまったくに的を得ていて、彼を知る人間の心にまとわりついた。
似た人間を遠い昔失ったときには、もう二度と朝が昇らないとさえ感じた芭唐すらそう感じた。
流れ星のように、あっという間に、消えていった。
結局猿野は子供を残さなかったので、凪が一人きりで喪主の座に着いた。父を結婚した年に事故で亡くし、3年後兄も病死し、姑も癌で失っていた彼女はこれで本当に一人ぼっちになった。有名人の夫を持った彼女の、半生とも言えない一部の人生は一度雑誌に特集されたことがある。
――さみしくないと言えば、嘘になります。でも、猿野も一緒に、かなしんでくれますから。
そう答えた彼女も、今度は一人きりで悲しまなければならない。
けれど、棺の前に崩れたまま咽び泣いているのは彼女ではない。子津の嗚咽が嫌でも哀切を訴える。子犬のように猿野を慕い、母のように愛していた。
想像でこの場を描けと命じたら、誰しもしおしおと泣く寡婦を描くだろう。抱えるほどのキャンパスいっぱいにしゃがみこみ、目元に手をやり俯く凪を。どうしてもしっかりした誰かを選ばなければならないのなら、唇を引き結んだ子津を描いたろう。無鉄砲な猿野の後始末を引き受けていたのは、いつだって彼だったのだから。
現実は、最後の最後でお目付け役はその責務を放棄した。猿野がそんなことを喜ばないと知っていながらも、棺に伏せて子津は泣いていた。猿野の我侭に微笑んでばかりで、碌に宥めもしなかった凪がその最期を、しっかりとぬぐった。
それはまったくに的を得ていて、彼を知る人間の心にまとわりついた。
似た人間を遠い昔失ったときには、もう二度と朝が昇らないとさえ感じた芭唐すらそう感じた。
流れ星のように、あっという間に、消えていった。
結局猿野は子供を残さなかったので、凪が一人きりで喪主の座に着いた。父を結婚した年に事故で亡くし、3年後兄も病死し、姑も癌で失っていた彼女はこれで本当に一人ぼっちになった。有名人の夫を持った彼女の、半生とも言えない一部の人生は一度雑誌に特集されたことがある。
――さみしくないと言えば、嘘になります。でも、猿野も一緒に、かなしんでくれますから。
そう答えた彼女も、今度は一人きりで悲しまなければならない。
けれど、棺の前に崩れたまま咽び泣いているのは彼女ではない。子津の嗚咽が嫌でも哀切を訴える。子犬のように猿野を慕い、母のように愛していた。
想像でこの場を描けと命じたら、誰しもしおしおと泣く寡婦を描くだろう。抱えるほどのキャンパスいっぱいにしゃがみこみ、目元に手をやり俯く凪を。どうしてもしっかりした誰かを選ばなければならないのなら、唇を引き結んだ子津を描いたろう。無鉄砲な猿野の後始末を引き受けていたのは、いつだって彼だったのだから。
現実は、最後の最後でお目付け役はその責務を放棄した。猿野がそんなことを喜ばないと知っていながらも、棺に伏せて子津は泣いていた。猿野の我侭に微笑んでばかりで、碌に宥めもしなかった凪がその最期を、しっかりとぬぐった。
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無題
2011年06月05日
あいつに「懐かしいよ」と言ったら、息をするように死ねと言うだろう。
大きな泥の臭い塊を何度も何度も綺麗な水に漬けた。何度も何度もにごらせて、どろどろにして、また綺麗な水を探してどろどろにした。
洗い続けて、なんとなく中身が、小さな蛍石が入ってると思えた。放っておいたらいつのまにかそれがむき出しになった。小指のつめほどもないという比喩が、大きすぎるほど小さな無価値な石。
知っていただろう? それを大事にして、何十にも泥で包んだ。泥以外で包みたかったけど、この手が汚れていて、抱えれば抱えるほど分厚くなった。
洗い続けたね。他人の水を汚して、自分のためにそれを洗い続けたね。本当に汚い行為だ。だから水のことを考えている振りをした。水の持ち主のことでなく、水のこと自身を。
あの先生が好きだった。美人だったから? 胸が大きかったから? さばさばしていた性格に好感が持てたから?
あんな強い性格、本当は嫌いだ。窓越しの彼女に釘付けになったのは、あの子に顔が似ていたからだ。私の脆くて儚くて、強かで図々しい。
ねえ、思い出すとまだ泣けるよ。君からもらった手紙もすべて燃えてしまった。私の返事も。
あのときしたことは何一つとして、正しくなんてなかった。
心だけは本当だった。ただ底なしに愚かだ。
心を引き伸ばして膜にして、貼り付けた。何度も繰り返した。もうやめようよ。
もう水を汚し続けるのはやめようよ。
色がつくのは仕方ないよ。汚すために汚すのはやめようよ。もうおしまいでしょう。時効だよ。
どうなったかな、獣医になったかな、それはないか。夢も叶わなかっただろうね。人生に疲れてしまっているかな。また苦しんでいるだろうな、簡単に想像できるよ。
さあ、幕を引こう!
役者は全員退場したね、わたくしが脚本家、そして主犯。
ねえ、さよならの合図だ。
大きな泥の臭い塊を何度も何度も綺麗な水に漬けた。何度も何度もにごらせて、どろどろにして、また綺麗な水を探してどろどろにした。
洗い続けて、なんとなく中身が、小さな蛍石が入ってると思えた。放っておいたらいつのまにかそれがむき出しになった。小指のつめほどもないという比喩が、大きすぎるほど小さな無価値な石。
知っていただろう? それを大事にして、何十にも泥で包んだ。泥以外で包みたかったけど、この手が汚れていて、抱えれば抱えるほど分厚くなった。
洗い続けたね。他人の水を汚して、自分のためにそれを洗い続けたね。本当に汚い行為だ。だから水のことを考えている振りをした。水の持ち主のことでなく、水のこと自身を。
あの先生が好きだった。美人だったから? 胸が大きかったから? さばさばしていた性格に好感が持てたから?
あんな強い性格、本当は嫌いだ。窓越しの彼女に釘付けになったのは、あの子に顔が似ていたからだ。私の脆くて儚くて、強かで図々しい。
ねえ、思い出すとまだ泣けるよ。君からもらった手紙もすべて燃えてしまった。私の返事も。
あのときしたことは何一つとして、正しくなんてなかった。
心だけは本当だった。ただ底なしに愚かだ。
心を引き伸ばして膜にして、貼り付けた。何度も繰り返した。もうやめようよ。
もう水を汚し続けるのはやめようよ。
色がつくのは仕方ないよ。汚すために汚すのはやめようよ。もうおしまいでしょう。時効だよ。
どうなったかな、獣医になったかな、それはないか。夢も叶わなかっただろうね。人生に疲れてしまっているかな。また苦しんでいるだろうな、簡単に想像できるよ。
さあ、幕を引こう!
役者は全員退場したね、わたくしが脚本家、そして主犯。
ねえ、さよならの合図だ。
十二支館
2011年04月25日
という話を書いていたことがあります。
ファミリーパロで牛尾パパと獅子川パパと長男いのり次男しかめ三男しば四男こてつ末っ子さるのなどというとんでも設定ですよ。
伏線張るだけ張ってどうにもしなかったという凶悪犯なので、ちょっと設定をお蔵だししてみる。さらにつまらないもの陳列罪という軽犯罪を犯すわけです。
ファミリーパロで牛尾パパと獅子川パパと長男いのり次男しかめ三男しば四男こてつ末っ子さるのなどというとんでも設定ですよ。
伏線張るだけ張ってどうにもしなかったという凶悪犯なので、ちょっと設定をお蔵だししてみる。さらにつまらないもの陳列罪という軽犯罪を犯すわけです。
この前の続き
2011年04月25日
むくとしてじゃなくても読めます。
芭唐視点。どっちかっていうと、まさかのばく。
わたしの書く芭唐は年上に弱いです。なぜかっていうとそれがかわいいとおもうから。
芭唐視点。どっちかっていうと、まさかのばく。
わたしの書く芭唐は年上に弱いです。なぜかっていうとそれがかわいいとおもうから。
先週の前って言うか続きっていうか
2011年03月28日
無涯×紅印に萌えすぎて息が苦しい。
息抜きに
2011年03月15日
そのさんのところからパクったよ! 前々から萌えてたよ! 犬飼を冷たい目で見つめる辰羅川が……すごく……好きです……。
突拍子のないこねたを、細々載せ始めようと思います。
ミスフルを好きなあなたが、すこしでも楽しい気持ちになれますように。
この次は新ジャンル、間男諏訪部声。の予定。
突拍子のないこねたを、細々載せ始めようと思います。
ミスフルを好きなあなたが、すこしでも楽しい気持ちになれますように。
この次は新ジャンル、間男諏訪部声。の予定。
強制お蔵入りのネタ披露
2011年01月11日
空は桃色、太陽は緑、アスファルトは真っ赤、他はすべてモノクロ、自分だけが正常な色という世界に突っ立つている自分に照は気づく。直前の記憶は目の前のトラック。「あれで生きてたの俺? しかも五体満足なんてさすが俺ってこと!」と独り言を言うと、背後から「そんなわけないじゃないか」と声。振り返ると白雪が立っている。
何故白雪がここに、さっきまで絶対後ろに誰もいなかったのに、そもそもここはどこだ、とまくし立てる照に「僕は白雪静山じゃない」「生と死の狭間の世界」と回答するのは白雪より残酷な目をした誰か、否、何か。
「君は生き返っても、歩けないし、一生野球は出来ない。ねえ、生き返りたい?」
「……」
口ごもる照を『何か』が嘲笑う。
「……馬鹿だね。まだ18年しか生きて居ない癖に。そんなことにしか楽しみがないなんて決め付けて。……泣くなよ、泣くぐらいなら、帰ればいいんだ、君の世界へ」
照が頷くと、空中に何かは窓を作り、開ける。その窓の向こうの眼下には果てしない雲。切れ間には小さな小さな下界の景色。
思わず飛び降りることを躊躇う照。呆れた『何か』は付けていた眼鏡を照に渡す。「君を失いかけて悲しむ人を見ろ」と。死の淵から今だ帰らない親友に泣くことも出来ない本物の白雪や、誰とも口を聞かなくなった犬飼、毎日病院へ通い続け両親でさえ直視するのも辛そうなほど無残な照の身体に話し掛ける辰を始め、身近な人々が憔悴している様を眼鏡越しに目の当たりにする照は、照とは別の病院のベッドで身体を丸めて横たわる御柳の背から、ぞっとするような色形の植物が生えているのを見つける。白雪の形の何かにその植物について尋ねると、言いにくそうに「死の芽だ」と彼は答える。
「……彼の周りは敵ばかりだ。やっと見出だした仲間は二人とも、彼を守るには自身たちが傷つきすぎている。さらに、生まれてから初めて心から信じて愛した君に野球を失わせ、あまつさえ命を奪いかけている。……もう駄目なんだよ、あの子は事実そのものに堪えられない」
「俺が? 俺が生き返ったら? あいつは大丈夫ってこと?」
「……君がここから生までたどり着くには時間がかかる。彼にはその間の不安すら、とどめでしかないんだ」
「っ! ふざけんな! あいつを殺させたりなんかしねえ! なんかあんだろ!? 御柳を助ける手が!」
白雪に似た何かが、胸倉を捕まれて顔を反らす。照は目を見張る。
「……なんか、あるん……だな!? 御柳を助ける方法を……知ってんだな、お前?!」
「やめなよ、そんなの知ったって、どうにもならない」
「言えよ!」
捕まれた胸倉を払って、彼は俯く。
「君が死ねばいいんだ」
呆けた照が聞き返す。彼は繰り返す。続ける。
「君みたいな心の持ち主は、死ぬと太陽の光になるんだ。それはあの草を枯らす力を持っている。君の魂で世界を照らせば、あの草に蝕まれた人間が……世界中に何千人くらい……草から救われて、少なくとも明日だけは永らえる」
「……俺が、俺がすぐに! すぐに、生き返れば、御柳、は……」
「……どんなに急いだって間に合わないよ。仮に君がさっき迷わずに飛び降りたところで間に合わなかった」
ならば。
絶望の端に見える、さきほど示された袋小路に、深く考えもせず喜色が浮かぶ。
「じゃあ、俺が死ねばいいんだな? ……御柳は……」
「何言ってるんだ!」
今度は白雪によく似た手が、照の胸倉を掴む。
「自分の言ったことをわかっているのか?! 君が死んだって、あの子が確実に永らえるのは草の枯れた一日だけだ。もしかしたら、その次の日には突発的なきっかけで、些細な不幸で、君なんか関係ないことで、死んでしまうかもしれない。そんなことのために自ら死を選ぶのか!? 選ぶ余地すら与えられない者がどれだけいると思っている!」
目を伏せる照。長い睫毛を濡らした涙は頬を伝い、胸倉を掴んだままの手に落ちる。
「だって……あいつ、死んじまうんだろ? まだ10歳なんだ。まだ、あんなにちっさくて、泣き虫で、意地っ張りで、やっと、マジやっと、嬉しそうに笑ったんだ、あいつ」
「君だってほんの18年しか生きてない! 人生のほんとうに楽しいことも、何も知らない!」
「……あいつは、あいつはもっと知らねえ……。やっと笑ったんだ、野球楽しいって、こんなの知らなかったって、」
零れた涙に濡れた白い手が、ゆっくりと照の襟から外される。
「……君が死んだら、その思いを、君の大事な人がみんな味わうんだよ? この、顔の持ち主も」
ありありと、想像の付く世界。さきほど見た光景と重なる。白雪は泣けもしないまま、両親は悲嘆に暮れる。部員たちは張り裂けそうな声で嗚咽する。子供たちは過酷すぎる悲惨から逃げ出す術も知らない。
「俺……弱っちい」
涙をそのまま、右手で顔を覆う。指の隙間から熱い雫が滴る。
「弱っちいよ……こんなに自分が情けねえなんて、知らなかった……」
白雪に似た誰かが、だらりと垂れたままの照の左手首を痛いほど掴んだ。
「怖えんだ、大事な奴が死ぬのが怖え。みんなそんなの怖えって、わかってる。ごめん、白雪、ごめん……でも、ダメなんだ、怖えよ……嫌だよ……あいつが死んじまうなんて……嫌だ、嫌だ……」
涙混じりに声は裏返る。
「死んでも、そんなの嫌なんだ……。ごめんみんな、ごめん白雪、ごめん、父ちゃん、母ちゃん……ごめんなさい……!」
ため息。照を捕まえていた、手を静かに離して彼は言う。
「……馬鹿だよ、君は、本当に馬鹿だ。そして卑怯ものだ。人の気持ちを踏みにじる、最低なやつだ」
そして窓は閉まる。さみしい声。
「直接は謝らせてあげられないんだ……ごめんね」
ある廃屋。二日前までは病院だった。一年前は役所だった。少女は息を殺している。家族皆そうだ。建物を囲む異民族はそれを知っている。逃げ出せば蜂の巣。さもなければ飢え死に。もう少女は神に祈らない。だってあんなに願ったのに。お父さんを帰してくれなかった。母が抱きしめることを許されたのは、指先の破片と、いま少女が首から下げているドッグタグだけ。朝日とともに彼女たちは建物を出る。飢えを待つには絶望が体を飽和していた。
叶うなら、迎えは父がいい。あの暖かな胸に抱かれて天の国へ。
そして日が昇り--朝日は、襲撃者たちの目を、眩むほどに打った。
彼女は走る。母の背を追い、姉に引っ張られ、弟の手を引き。
誰かが願ったとしか思えなかった。そうじゃなきゃ、こんな奇跡はない。
彼女を含めた可哀相な誰かたちが、出来得る限り生き延びることを誰かが願っているのだ。
何故白雪がここに、さっきまで絶対後ろに誰もいなかったのに、そもそもここはどこだ、とまくし立てる照に「僕は白雪静山じゃない」「生と死の狭間の世界」と回答するのは白雪より残酷な目をした誰か、否、何か。
「君は生き返っても、歩けないし、一生野球は出来ない。ねえ、生き返りたい?」
「……」
口ごもる照を『何か』が嘲笑う。
「……馬鹿だね。まだ18年しか生きて居ない癖に。そんなことにしか楽しみがないなんて決め付けて。……泣くなよ、泣くぐらいなら、帰ればいいんだ、君の世界へ」
照が頷くと、空中に何かは窓を作り、開ける。その窓の向こうの眼下には果てしない雲。切れ間には小さな小さな下界の景色。
思わず飛び降りることを躊躇う照。呆れた『何か』は付けていた眼鏡を照に渡す。「君を失いかけて悲しむ人を見ろ」と。死の淵から今だ帰らない親友に泣くことも出来ない本物の白雪や、誰とも口を聞かなくなった犬飼、毎日病院へ通い続け両親でさえ直視するのも辛そうなほど無残な照の身体に話し掛ける辰を始め、身近な人々が憔悴している様を眼鏡越しに目の当たりにする照は、照とは別の病院のベッドで身体を丸めて横たわる御柳の背から、ぞっとするような色形の植物が生えているのを見つける。白雪の形の何かにその植物について尋ねると、言いにくそうに「死の芽だ」と彼は答える。
「……彼の周りは敵ばかりだ。やっと見出だした仲間は二人とも、彼を守るには自身たちが傷つきすぎている。さらに、生まれてから初めて心から信じて愛した君に野球を失わせ、あまつさえ命を奪いかけている。……もう駄目なんだよ、あの子は事実そのものに堪えられない」
「俺が? 俺が生き返ったら? あいつは大丈夫ってこと?」
「……君がここから生までたどり着くには時間がかかる。彼にはその間の不安すら、とどめでしかないんだ」
「っ! ふざけんな! あいつを殺させたりなんかしねえ! なんかあんだろ!? 御柳を助ける手が!」
白雪に似た何かが、胸倉を捕まれて顔を反らす。照は目を見張る。
「……なんか、あるん……だな!? 御柳を助ける方法を……知ってんだな、お前?!」
「やめなよ、そんなの知ったって、どうにもならない」
「言えよ!」
捕まれた胸倉を払って、彼は俯く。
「君が死ねばいいんだ」
呆けた照が聞き返す。彼は繰り返す。続ける。
「君みたいな心の持ち主は、死ぬと太陽の光になるんだ。それはあの草を枯らす力を持っている。君の魂で世界を照らせば、あの草に蝕まれた人間が……世界中に何千人くらい……草から救われて、少なくとも明日だけは永らえる」
「……俺が、俺がすぐに! すぐに、生き返れば、御柳、は……」
「……どんなに急いだって間に合わないよ。仮に君がさっき迷わずに飛び降りたところで間に合わなかった」
ならば。
絶望の端に見える、さきほど示された袋小路に、深く考えもせず喜色が浮かぶ。
「じゃあ、俺が死ねばいいんだな? ……御柳は……」
「何言ってるんだ!」
今度は白雪によく似た手が、照の胸倉を掴む。
「自分の言ったことをわかっているのか?! 君が死んだって、あの子が確実に永らえるのは草の枯れた一日だけだ。もしかしたら、その次の日には突発的なきっかけで、些細な不幸で、君なんか関係ないことで、死んでしまうかもしれない。そんなことのために自ら死を選ぶのか!? 選ぶ余地すら与えられない者がどれだけいると思っている!」
目を伏せる照。長い睫毛を濡らした涙は頬を伝い、胸倉を掴んだままの手に落ちる。
「だって……あいつ、死んじまうんだろ? まだ10歳なんだ。まだ、あんなにちっさくて、泣き虫で、意地っ張りで、やっと、マジやっと、嬉しそうに笑ったんだ、あいつ」
「君だってほんの18年しか生きてない! 人生のほんとうに楽しいことも、何も知らない!」
「……あいつは、あいつはもっと知らねえ……。やっと笑ったんだ、野球楽しいって、こんなの知らなかったって、」
零れた涙に濡れた白い手が、ゆっくりと照の襟から外される。
「……君が死んだら、その思いを、君の大事な人がみんな味わうんだよ? この、顔の持ち主も」
ありありと、想像の付く世界。さきほど見た光景と重なる。白雪は泣けもしないまま、両親は悲嘆に暮れる。部員たちは張り裂けそうな声で嗚咽する。子供たちは過酷すぎる悲惨から逃げ出す術も知らない。
「俺……弱っちい」
涙をそのまま、右手で顔を覆う。指の隙間から熱い雫が滴る。
「弱っちいよ……こんなに自分が情けねえなんて、知らなかった……」
白雪に似た誰かが、だらりと垂れたままの照の左手首を痛いほど掴んだ。
「怖えんだ、大事な奴が死ぬのが怖え。みんなそんなの怖えって、わかってる。ごめん、白雪、ごめん……でも、ダメなんだ、怖えよ……嫌だよ……あいつが死んじまうなんて……嫌だ、嫌だ……」
涙混じりに声は裏返る。
「死んでも、そんなの嫌なんだ……。ごめんみんな、ごめん白雪、ごめん、父ちゃん、母ちゃん……ごめんなさい……!」
ため息。照を捕まえていた、手を静かに離して彼は言う。
「……馬鹿だよ、君は、本当に馬鹿だ。そして卑怯ものだ。人の気持ちを踏みにじる、最低なやつだ」
そして窓は閉まる。さみしい声。
「直接は謝らせてあげられないんだ……ごめんね」
ある廃屋。二日前までは病院だった。一年前は役所だった。少女は息を殺している。家族皆そうだ。建物を囲む異民族はそれを知っている。逃げ出せば蜂の巣。さもなければ飢え死に。もう少女は神に祈らない。だってあんなに願ったのに。お父さんを帰してくれなかった。母が抱きしめることを許されたのは、指先の破片と、いま少女が首から下げているドッグタグだけ。朝日とともに彼女たちは建物を出る。飢えを待つには絶望が体を飽和していた。
叶うなら、迎えは父がいい。あの暖かな胸に抱かれて天の国へ。
そして日が昇り--朝日は、襲撃者たちの目を、眩むほどに打った。
彼女は走る。母の背を追い、姉に引っ張られ、弟の手を引き。
誰かが願ったとしか思えなかった。そうじゃなきゃ、こんな奇跡はない。
彼女を含めた可哀相な誰かたちが、出来得る限り生き延びることを誰かが願っているのだ。
屑桐と国定
2010年10月30日
いぜん設定だけ書いた、前世ものの小話。
この組み合わせ書いたのわたしが世界で始めてなんじゃね? フロンティアなんじゃね?
この組み合わせ書いたのわたしが世界で始めてなんじゃね? フロンティアなんじゃね?